金融庁の共同データプラットフォーム最新動向と企業間データ連携の可能性

イントロダクション

金融庁が推進する「共同データプラットフォーム」は、金融機関や関連企業間での効率的なデータ共有を実現するための基盤である。本プラットフォームは、デジタル化の進展に対応し、金融業界全体の透明性と信頼性を向上させることを目的としている。

共同データプラットフォームの進捗と今後の進め方には「金融庁と日本銀行は、より質の高いモニタリングの実施と金融機関の負担軽減を図る観点から、データの一元化に取り組んできた」と記載されている。また2025年3月からは高粒度データの収集を開始する、とされている。

本稿では、2024年以降の最新動向を中心に、このプラットフォームの概要や企業間データ連携との関係性について解説する。

参考情報

共同データプラットフォームとは

データ一元化の進捗と今後の進め方(2023年)によれば、共同データプラットフォームは、金融庁と日本銀行が連携して構築を進める、より実効的・効率的なデータ収集・管理の枠組みである。このプラットフォームは以下の特徴を持つ:

  • データ収集の一元化:金融機関からの報告窓口を統一し、複数の金融当局間でデータを共有
  • 高粒度データの活用:取引単位レベルの詳細なデータを収集・分析
  • データの標準化:定義・フォーマットの標準化による一貫性と品質の確保

このプラットフォームは、金融機関の報告負担軽減と当局のモニタリング能力向上を同時に実現する、次世代の金融データ管理基盤として位置づけられている。

参考情報

最新動向(2024年以降)

2024年7月、金融庁は共同データプラットフォームの進捗と今後の計画に関する報告書を公表した。この報告書では、以下のような内容が示されている。

  • 進捗状況: データ収集・管理の新たな枠組みが整備されつつあり、データクレンジングの具体的な手法が確立。
  • 今後の計画: 金融機関間のデータ共有をさらに促進するため、新たなAPI仕様の導入を検討。

また、2024年度の金融行政方針では、共同データプラットフォームを活用したデジタル化の推進が重要な柱として位置づけられている。

参考: 2024事務年度金融行政方針

事例

(要旨) 本稿では、共同データプラットフォームの検討に向けた実証実験11に参加した地方銀行 (49 行)から収集した法人向け貸出明細等の高粒度データを用い、顧客企業の業種、製品 または地理的条件に着目し、地方銀行の気候関連リスク(移行リスク・物理的リスク)の特 徴や、それが地域毎に相違すること等を明らかにした。気候変動に関するデータや手法は発 展途上にあり、今後とも金融機関との対話への活用に向けてデータ整備及び分析の高度化に 取り組んでいく。

共同データプラットフォームにより収集された高粒度データが用いられている。

気候関連のリスク分析における高粒度データの活用方法

本分析では、共同データプラットフォームの実証実験に参加した地方銀行49行から収集した法人向け貸出明細等の高粒度データを以下のように活用している。

高粒度データの具体的内容

収集されたデータ

  • 法人向け貸出明細:個別企業への融資情報
  • 債務者明細:融資先企業の詳細情報
  • 帝国データバンクの企業データとの連携

3つの分析での活用方法

1. ファイナンスド・エミッション(FE)分析での活用

データの使用方法

  • 各融資先企業の業種別分類融資額を特定
  • 企業の売上高資金調達総額情報を活用
  • アトリビューション・ファクター(投融資額/資金調達総額)の計算に使用

具体的な計算プロセス

1
2
FE = Σ(アトリビューション・ファクターᵢ × 排出量ᵢ)
アトリビューション・ファクターᵢ = 投融資額ᵢ / 資金調達総額ᵢ

メインバンク判定

  • 各企業について、2022年3月末時点の貸出残高が最も大きい銀行をメインバンクと特定している
  • 複数の地方銀行から財務情報が取得可能な場合、貸出残高最大の銀行の財務情報を使用している

2. EV化リスク分析での活用

企業特定プロセス

  • 高粒度データから輸送用機械器具製造業に分類される企業を抽出している
  • 帝国データバンクの信用調査報告書の定性情報と連携している
  • 事業概要に「エンジン」キーワードを含む企業を機械的に抽出している

地域別分析

  • 法人貸出残高に占めるエンジン関連企業への融資割合を地域別に集計している
  • 銀行の本店所在地による地域分類を実施している

3. 物理的リスク(水災)分析での活用

住所情報の活用

  • 融資先企業の明細データを国税庁法人番号公表サイトの本店所在地住所と結合している
  • 各企業の所在地を国土交通省の洪水ハザードマップ上にマッピングしている

リスク度計算

1
リスク度 = 営業停止・停滞日数 × 融資額

地域別集計

  • 中小企業向け融資の貸出残高あたりリスク度を地方銀行の本店所在地域別に比較している
  • 市区町村別にリスク度を詳細分析を行っている

高粒度データ活用の特徴

データの粒度レベル

  • 個別企業レベルでの融資情報
  • 具体的な融資額企業属性の組み合わせ
  • 地理的な詳細情報(本社所在地まで特定)

分析の機械的処理

  • 一定の仮定に基づく機械的な試算や抽出を実施している[3]
  • 結果については相応の幅を持って解釈する必要がある[3]

データ連携の重要性

  • 金融データと外部データ(ハザードマップ、企業情報等)の結合により、従来では不可能だった詳細分析を実現している
  • 幅広いデータの活用が気候関連リスクの的確な把握に有効であることを確認している

このように、高粒度データは個別企業レベルでの詳細な分析を可能にし、地域別・業種別・リスク別の特徴を明らかにする基盤として活用されうる。

参考情報

企業間データ連携との関係性

共同データプラットフォームを一種の企業・組織間データ連携の仕組みだと考えると以下のように考察できる。

課題解決へのアプローチ

企業間でのデータ連携を円滑にするため、以下のような仕組みが導入されている。

  • データ標準化: 異なる企業間でのデータの互換性を確保。
  • 高粒度データ: 高粒度なデータを収集し、解像度が高いモニタリングを可能にする
  • 金融機関の負担軽減: 代替可能な既存計表を廃止することで負担軽減

参考: 入札公告等: データクレンジングに関する情報

参考: 共同データプラットフォームの進捗と今後の進め方

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